「遺言書は書き終えました。でも、子どもたちに言うと気まずくなりそうで、まだ誰にも話していないんです」――遺言書を作り終えた方から、柏市の行政書士だいち法務事務所でもときどき伺うお悩みです。中身を知られたくない気持ちと、亡くなった後にきちんと見つけてほしい気持ちの間で迷うのは、ごく自然なことでしょう。(参考例)自宅のたんすにしまっていた遺言書が、遺産分割協議を終えて実家を片付けている最中に見つかり、話し合いをやり直すことになった、というケースもあります。今回は、遺言の存在を家族に伝えるべきか、作り方(方式)ごとに違う「見つけてもらう仕組み」と、保管場所の選び方を整理します。
この記事の結論
- 遺言書は、亡くなった後に見つけてもらえなければ役に立ちません。内容までは伝えなくても、少なくとも「遺言があること」と「保管場所(または作成方式)」は、信頼できる家族や遺言執行者に伝えておくのが基本とされています。
- 公正証書遺言は公証役場の遺言検索システム、法務局に預けた自筆証書遺言は遺言書保管事実証明書や死亡時の通知の仕組みで、家族が後から存在を確かめられます。自宅で保管する自筆証書遺言には、こうした仕組みがありません。
- 内容まで伝えるかどうかは家族関係しだいです。伝える場合は、分け方の理由を付言事項に書き添えておくと、受け止めてもらいやすくなると考えられます。
遺言書の保管と伝え方、作った後のこともご相談ください
誰にも伝えないままだと、何が起こり得る?
遺言書は、作った時点ではなく、遺言者が亡くなった時点で効力が生じます。そのときに家族が遺言の存在を知らなければ、遺言がないものとして相続手続きが進んでしまうおそれがあります。具体的には、次のような事態が考えられます。
- 遺言がないまま遺産分割が終わる:後から遺言書が見つかると、遺言の内容と違う分け方をしていた場合、相続人や受遺者の間で協議のやり直しや調整が必要になることがあります。銀行や法務局での手続きも、一部をやり直す手間が生じ得ます。
- 見つけた人が隠したり捨てたりする:自分に不利な内容だと考えた相続人が遺言書を隠したり破棄したりすれば、その人は相続人の資格を失う(相続欠格、民法891条5号)とされています。ただし、隠されたこと自体に気づけなければ、遺言者の意思は実現されないままになってしまいます。
- 期限のある手続きに間に合わない:相続放棄の熟慮期間(原則3か月)や相続税の申告期限(10か月)は、遺言が見つかるのを待ってはくれません。遺言の発見が遅れるほど、判断の材料がそろわないまま期限が迫ることになります。
せっかく時間をかけて書いた遺言も、見つけてもらえなければ「書かなかった」のと同じ結果になりかねません。少なくとも存在だけは、誰かに伝えておく意味は大きいといえます。
方式ごとに違う「家族が見つける仕組み」
遺言の作り方によって、亡くなった後に家族が遺言の有無を確かめる方法が大きく変わります。
公正証書遺言の原本は、作成した公証役場に保管されます。相続人などの利害関係人は、遺言者が亡くなった後、全国どこの公証役場でも「遺言検索システム」で遺言の有無と保管先を照会できるとされています(照会は無料)。家族が「公正証書遺言を作った」ことさえ知っていれば、たどり着ける可能性が高い方式です。なお、遺言者の生存中は、遺言者本人以外は照会できない扱いとされています。
法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した場合、相続人などは、全国の法務局で「遺言書保管事実証明書」を請求して、遺言書が預けられているかを確認できます。また、遺言者が希望すれば、法務局が遺言者の死亡を確認した後、あらかじめ指定した人に遺言書が保管されている旨を知らせる「指定者通知」の仕組みもあります。さらに、相続人の一人が遺言書を閲覧したり証明書の交付を受けたりすると、他の相続人にも保管の事実が通知される(関係遺言書保管通知)とされています。家族に詳しく話さなくても、見つけてもらえる仕組みが用意されているのが特徴です。
一方、自宅などで保管する自筆証書遺言には、こうした公的な検索・通知の仕組みはありません。家族が見つけてくれるかどうかは、保管場所と、誰かに伝えてあるかどうかにかかっています。見つかった後も、家庭裁判所での検認(民法1004条)が必要になります(法務局保管の遺言書と公正証書遺言は検認が不要です)。
どこまで伝える?保管場所はどう選ぶ?
「伝える」といっても、伝え方には段階があります。家族関係や遺言の内容に合わせて選ぶのが現実的です。
- 存在だけを伝える:「遺言書を作ってある」とだけ話しておく方法です。内容を知られずに済む一方、保管場所が分からなければ探すのに苦労するため、公正証書遺言や法務局保管と組み合わせると効果的です。
- 存在と保管場所を伝える:「公証役場で作った」「法務局に預けてある」「〇〇に保管している」まで伝える方法です。多くの方にとって、最もバランスのよい伝え方といえるでしょう。
- 内容まで伝える:生前に家族に説明し、納得してもらう方法です。亡くなった後の驚きや不満を減らせる半面、生前から関係がぎくしゃくするおそれもあります。分け方の理由や感謝の気持ちは、遺言書の付言事項に書き添えておくと伝わりやすくなります。
伝える相手は、家族全員でなくてもかまいません。遺言執行者を指定している場合は、執行者に存在と保管場所を伝え、公正証書遺言の正本や謄本を預けておく方法もよく使われます。
保管場所を選ぶ際は、「本人が亡くなった後に、家族がすぐ取り出せるか」という視点が大切です。たとえば銀行の貸金庫は安全ですが、契約者が亡くなると原則として相続人全員の同意がなければ開けられないとされ、遺言を確認するまでに時間がかかることがあります。自宅で保管する場合は、耐火金庫など分かりやすく安全な場所を選び、その場所を信頼できる人に伝えておきましょう。
チェックリスト
- ☐ 遺言書を作ったことを、少なくとも1人の信頼できる人に伝えている。
- ☐ 作成方式(公正証書・法務局保管・自宅保管)を家族が分かるようにしている。
- ☐ 遺言執行者を指定した場合、執行者に保管場所を知らせてある。
- ☐ 法務局に預ける場合、死亡時の通知(指定者通知)を希望するか検討した。
- ☐ 貸金庫に入れるなら、亡くなった後に取り出しにくくなる点を理解している。
- ☐ 自宅保管なら、耐火性があり家族が見つけやすい場所を選んだ。
- ☐ 分け方の理由や家族への思いを、付言事項として書き添えるか考えた。
Q. 遺言書の内容を家族に話した後で、書き直すことはできますか?
A. 遺言はいつでも、遺言の方式にしたがって撤回・書き直しができるとされています(民法1022条)。家族に内容を伝えていても、それに縛られることはありません。書き直した場合は、新しい遺言があることも改めて伝えておくと、古い遺言だけが見つかる事態を防げます。
Q. 家族には一切知らせず、確実に見つけてもらう方法はありますか?
A. 法務局の自筆証書遺言書保管制度で指定者通知を利用すれば、亡くなった後に法務局から指定した人へ保管の事実が知らされる仕組みがあります。また、遺言執行者に専門家を指定し、その専門家にだけ存在を伝えておく方法も考えられます。
Q. 公正証書遺言の正本は、誰に預けておくのがよいですか?
A. 原本は公証役場に保管されるため、正本を紛失しても遺言が無効になることはないとされています。そのうえで、遺言執行者に指定した人や、手続きを主に担う予定の家族に預けておくと、亡くなった後の手続きをスムーズに始めやすいと考えられます。
ワンポイントアドバイス: 遺言書は「書くこと」と同じくらい「見つけてもらうこと」が大切です。伝える範囲に迷ったら、まずは存在と作成方式だけでも、遺言執行者や信頼できるご家族に伝えておくことをおすすめします。柏市・松戸市・流山市・我孫子市で遺言書を作成された方、これから作成される方の、保管方法や伝え方のご相談も承っています。
まとめ
遺言書は、亡くなった後に見つけてもらえなければ、遺言者の思いを実現できません。公正証書遺言は遺言検索システム、法務局に預けた自筆証書遺言は保管事実の証明や死亡時の通知の仕組みで家族が存在を確かめられますが、自宅保管の遺言書にはそうした仕組みがありません。内容まで伝えるかは家族関係に応じて判断し、少なくとも「遺言があること」と「保管場所・作成方式」は信頼できる人に伝えておきましょう。保管場所は、亡くなった後にすぐ取り出せるかという視点で選ぶことが大切です。
書いた遺言を確実に届けるために、柏市の相談室にご相談ください
行政書士は、遺言書の文案作成のサポート、公正証書遺言の作成に向けた公証役場との調整、証人の手配、遺言執行者への就任などを承っております。なお、遺言の有効性をめぐる争いや相続人間の交渉・訴訟は弁護士、不動産の名義変更(相続登記)は司法書士、相続税の申告は税理士の業務となるため、必要に応じて適切な専門家をご案内いたします。
参考URL
関連記事
- 亡くなった親の遺言書、どこを探せばいい?|法務局・公証役場の検索システムの使い方
- 法務局に預けた遺言書、家族に知らせてもらえる?|死亡時通知・関係遺言書保管通知の仕組み
- 遺言書に「付言事項」を書く意味とは?|法的効力はなくても家族への想いを残す方法
- 亡くなった親の貸金庫、開けるには?|相続人全員の同意と遺言執行者による開扉・事実実験公正証書


コメント