「数年前に『自宅は長男に相続させる』と遺言を書きました。でも、足腰が弱ってきたので、自宅を売って駅近のマンションに住み替えようと考えています。遺言はこのままで大丈夫でしょうか」。こんにちは。柏市の行政書士だいち法務事務所です。遺言書は一度書いたら終わりではなく、その後の暮らしの変化によって、内容が実現できなくなることがあります。今回は、遺言に書いた財産を生前に売ったり贈与したりした場合に遺言がどうなるのかを、民法1023条2項のルールをもとに整理します。
この記事の結論
- 遺言を書いた後に、遺言で譲ると決めた財産を売却・贈与するなど、遺言の内容と両立しない行為をすると、その部分の遺言は撤回したものとみなされます(民法1023条2項)。
- 撤回とみなされるのは、遺言のうち抵触する部分だけです。ほかの財産についての記載は、原則としてそのまま有効とされています。
- 自宅を売ったお金や、住み替え先の新しい家には、元の遺言が自動的に及ぶわけではないと考えられます。住み替えや大きな財産の処分をしたときは、遺言を書き直すのが安心です。
住み替え・財産の変化にあわせた遺言の見直し、柏市の相談室でお手伝いします
遺言の後に財産を売ると「撤回した」とみなされる仕組み
遺言はいつでも撤回したり書き直したりできるもので、前の遺言と後の遺言の内容がぶつかる場合は、その部分について後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(民法1023条1項)。そして同じ条文の2項は、このルールを「遺言の後に行った生前処分その他の法律行為」が遺言と抵触する場合にも当てはめるとしています。
たとえば「自宅を長男に相続させる」と書いた後に、その自宅を第三者に売却したとします。亡くなった時点で自宅はもう本人のものではないため、遺言どおりに長男へ引き継ぐことはできません。このように、遺言の内容と生前の行為が両立しない場合、遺言のその部分は撤回されたものとして扱われるのです。
売却だけでなく、遺言で長男に譲るとした自宅を次男に生前贈与した場合なども、同じように考えられます。また、判例では、物理的に両立しない場合だけでなく、生前の行為が遺言と両立させない趣旨で行われたことが明らかな場合も「抵触」にあたり得ると考えられています。どのような行為が抵触にあたるかは個別の判断になるため、迷ったときは専門家に相談するのがよいでしょう。
撤回されるのは「抵触する部分」だけ、売却代金はどうなる?
注意したいのは、撤回とみなされるのは遺言のうち抵触する部分に限られるという点です。自宅のほかに「預貯金は長女に」と書いていれば、その部分は自宅を売った後もそのまま有効とされています。遺言書全体が無効になるわけではありません。
一方で、自宅を売って得たお金が、そのまま長男に渡るわけではない点にも気をつけましょう。売却代金は預貯金などの別の財産に形を変えているため、遺言に別の定めがなければ、相続人全員で遺産分割協議をして分けることになると考えられます。遺言に「その他一切の財産は〇〇に相続させる」という条項があれば、その条項に従って引き継がれることになるでしょう。
住み替えの場合も同様に、新しく買ったマンションは遺言を書いた時点では存在しなかった財産です。元の遺言に「自宅」とだけ書いてあっても、書き方によっては新しい住まいに当然には及ばないと考えられるため、「長男に住まいを継がせたい」という想いを実現するには、遺言の書き直しが必要になります。
財産が変わったら遺言を見直す、書き直しのポイント
不動産の売却・住み替えや、まとまった生前贈与をしたときは、遺言を見直す良いタイミングです。新しい遺言を作る際は、「以前に作成した遺言はすべて撤回する」と明記したうえで、現在の財産を前提に書き直すと、後で複数の遺言の関係を読み解く手間が省けます。
見直しの際は、次のような点もあわせて確認しておきましょう。
- 住み替え先の不動産を、登記事項証明書どおりに特定して記載する
- 売却代金などで増えた預貯金を、誰に引き継ぐかを決める
- 財産の記載漏れに備えて「その他一切の財産」の条項を入れる
- 取得する人が先に亡くなった場合に備える予備的な条項を検討する
法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用している場合は、新しい遺言を作るのとあわせて、保管の申請の撤回や変更の届出が必要になることがあります。公正証書遺言で作り直す場合は、公証役場に相談しながら進めると安心です。判断能力が衰えてからでは書き直しが難しくなることもあるため、住み替えを決めた段階で早めに取りかかりましょう。
チェックリスト
- ☐ 以前に書いた遺言の内容と、どの財産を誰に譲ると書いたかを確認した。
- ☐ 遺言を書いた後に、売却・贈与・建て替えなどで形が変わった財産がないか洗い出した。
- ☐ 売却代金や住み替え先の不動産を、誰に引き継ぐかを考えている。
- ☐ 「その他一切の財産」の条項や予備的な条項が入っているか見直した。
- ☐ 法務局の保管制度・公正証書のどちらで書き直すかを決めた。
- ☐ 新しい遺言に「以前の遺言はすべて撤回する」旨を入れるか検討した。
Q. 遺言に書いた家を売ったら、遺言書全体が無効になりますか?
A. いいえ、撤回とみなされるのは売却した家に関する部分だけとされています。預貯金など、ほかの財産についての記載は原則としてそのまま有効です。ただし、内容が実情と合わなくなっている可能性が高いため、全体を見直すことをおすすめします。
Q. 遺言で長男に譲ると書いた家を、生前に長男へ贈与した場合はどうなりますか?
A. 亡くなった時点で家はすでに長男のものになっているため、遺言のその部分は実現する対象がなくなります。生前の贈与は、遺産分割の際に特別受益として考慮される場合もあると考えられます。贈与税の扱いもあわせて、税理士にご相談ください。
Q. 書き直すとき、前の遺言書は捨てたほうがよいですか?
A. 前の遺言書を破棄しなくても、新しい遺言で抵触する部分は撤回されたものとみなされます。とはいえ、複数の遺言が残っていると相続人が混乱するおそれがあるため、新しい遺言に「以前の遺言はすべて撤回する」と明記しておくと分かりやすくなります。
ワンポイントアドバイス: 住み替えの相談では、売却や購入の手続きに気をとられ、遺言のことまで頭が回らないケースが少なくありません。不動産の売買契約を結ぶタイミングを「遺言を見直す合図」と決めておくと、書き直し忘れを防げます。相談室では、不動産の売買・仲介の経験も踏まえて、住み替えと遺言の見直しをあわせてご相談いただけます。
まとめ
遺言に書いた財産を生前に売ったり贈与したりすると、その部分の遺言は撤回されたものとみなされます(民法1023条2項)。撤回の対象は抵触する部分だけで、遺言書全体が無効になるわけではありませんが、売却代金や住み替え先の家に元の遺言が自動的に及ぶわけでもありません。住み替えや大きな財産の処分をしたときは、遺言を書き直して、今の財産に合った内容に整えておきましょう。
今の財産に合った遺言に整えたい方は、柏市の相談室へお気軽にどうぞ
行政書士は、遺言書の文案作成や財産目録の作成、公正証書遺言作成時の公証役場との調整、相続人の調査(戸籍収集)などを承っております。なお、不動産の名義変更(相続登記)は司法書士、相続人間の交渉や遺言の効力をめぐる争いは弁護士、相続税・贈与税の申告は税理士の業務となるため、必要に応じて適切な専門家をご案内いたします。
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