「主人の遺族年金も、子どもたちと分けないといけないのでしょうか。相続税の計算にも入るんですか?」――ご主人を亡くされた奥さまから、柏市の行政書士だいち法務事務所に寄せられることのある質問です。預金や自宅と同じように「亡くなった人から受け継ぐお金」と考えると、遺産の一部のように感じるのも無理はありません。(参考例)相続人の一人から「お母さんは遺族年金をもらえるのだから、預金は少なめでいいよね」と言われ、遺産分割の話し合いがぎくしゃくしてしまった、というケースもあります。今回は、遺族年金と相続の関係、請求先と期限、2028年4月から予定されている遺族厚生年金の見直しを整理します。
この記事の結論
- 遺族年金は、法律で定められた遺族が自分の権利として受け取るものとされ、亡くなった方の財産(相続財産)ではありません。そのため遺産分割の対象にならず、相続放棄をしても受け取れると考えられています。
- 国民年金法・厚生年金保険法にもとづく遺族年金には、所得税も相続税もかからないとされています。相続税の申告が必要かどうかを判断するときも、遺産の額に含めずに計算します。
- 請求先は、遺族厚生年金なら年金事務所、遺族基礎年金のみなら住所地の市区町村が基本です。受け取る権利は5年で時効にかかるため、早めの請求が大切です。2028年4月からは、子のない配偶者の遺族厚生年金が男女共通で原則5年の有期給付になる見直しが予定されています。
遺族年金と遺産分割の関係、整理してから話し合いませんか
遺族年金が「相続財産」にならないとされる理由
遺族年金は、公的年金に加入していた方が亡くなったときに、その方に生計を維持されていた一定の遺族の生活を支えるために支給されるものです。誰が受け取れるかは、亡くなった方の意思や遺言ではなく、国民年金法・厚生年金保険法の定めによって決まります。
このように、遺族年金を受け取る権利は、法律が定める遺族に直接発生する「遺族固有の権利」とされています。亡くなった方が持っていた財産を引き継ぐわけではないため、預金や不動産のように遺産分割協議で分け方を決める対象にはならない、と考えられています。
そこから導かれる実務上のポイントは、次の3つです。
- 遺産分割の対象外:遺族年金を受け取る配偶者がいても、他の相続人に分ける必要はありません。遺産分割協議書に記載する必要も通常はありません。
- 相続放棄をしても受け取れる:亡くなった方に借金が多く相続放棄をする場合でも、遺族年金は受け取れると考えられています。年金の請求は「相続財産の処分」にあたらないとされるためです。
- 遺産の取り分とは別に考える:遺族年金は生前の贈与ではないため、一般には特別受益(民法903条)にもあたらないと考えられています。「遺族年金があるから遺産は少なくてよい」という主張に、法律上の根拠は乏しいといえます。
なお、亡くなった月までの年金で、まだ振り込まれていない分(未支給年金)も遺族固有の権利とされますが、こちらは受け取った遺族の一時所得として所得税の対象になります。遺族年金とは税金の扱いが違う点に注意しましょう。
相続税・所得税はかかる?受け取れる人の範囲は?
国税庁の案内では、国民年金法や厚生年金保険法などにもとづいて遺族に支給される遺族年金には、原則として所得税も相続税も課税されないとされています。年金の各法律に、保険給付として受けた金銭には税金を課すことができない旨の定めがあるためです。
そのため、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるかどうかを判断するときも、遺族年金は遺産の額に含めません。毎年受け取る遺族年金について、確定申告をする必要も通常はないと考えられます。ただし、勤務先の企業年金(確定給付企業年金など)から遺族に支払われる年金は扱いが異なり、相続税の対象になる場合があるとされているため、公的年金と区別して確認しておきましょう。
受け取れる人の範囲は、年金の種類によって次のように異なります。
- 遺族基礎年金(国民年金):亡くなった方に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」。ここでいう子は、原則として18歳になった年度の3月31日までの子(障害等級1級・2級の場合は20歳未満)とされています。
- 遺族厚生年金(厚生年金):亡くなった方に生計を維持されていた配偶者・子・父母・孫・祖父母のうち、優先順位が最も高い人。子のない妻も対象になり、夫・父母・祖父母には年齢の要件があります。
生計を維持されていたかどうかは、同居(または仕送りなどの事実)と、遺族の前年の年収が850万円未満であることなどで判断されるとされています。また、遺族厚生年金の「配偶者」には、婚姻届を出していない事実婚(内縁)の配偶者も含まれ得る点は、相続との大きな違いです。内縁の配偶者には相続権がありませんが、遺族年金は受け取れる可能性があります。
請求先と期限、2028年4月からの見直し
遺族年金は、自動的に振り込まれるものではなく、遺族が請求の手続きをする必要があります。窓口は、受け取る年金によって次のとおりです。
- 遺族厚生年金を請求する場合:年金事務所または街角の年金相談センター。柏市にお住まいの方であれば、柏年金事務所が身近な窓口になります(来訪相談は予約制が便利です)。
- 遺族基礎年金のみを請求する場合:住所地の市区町村役場の国民年金の窓口(柏市なら柏市役所)。年金事務所でも受け付けています。
請求には、年金請求書のほか、亡くなった方と請求する方の年金手帳(基礎年金番号がわかるもの)、戸籍謄本、世帯全員の住民票、請求する方の収入を確認できる書類、死亡診断書の写しなどが求められるのが一般的です。同じ戸籍謄本でも、相続手続き用と年金用で必要な範囲が異なることがあるため、取り寄せる前に窓口で確認すると二度手間を防げます。
期限にも気をつけましょう。年金を受け取る権利は、原則として5年を過ぎると時効により消滅するとされています。さかのぼって受け取れるのは5年分までとなるため、相続手続きに追われて請求を後回しにしないことが大切です。
さらに、2025年6月に成立した年金制度改正法により、遺族厚生年金は2028年4月から見直される予定です。厚生労働省の資料によると、主な内容は次のとおりとされています。
- 18歳年度末までの子がいない配偶者は、男女共通で、原則5年間の有期給付になる(60歳未満で受給権が生じた場合)。そのかわり5年間の給付額は、現在よりも手厚くなるよう加算される。
- 夫側の年齢要件がなくなり、子のない夫も60歳未満で受け取れるようになる。
- すでに遺族厚生年金を受け取っている方、60歳以降に受給権が生じる方、2028年度末時点で40歳以上の女性などは、見直しの影響を受けない。
- 中高齢寡婦加算は、2028年4月から25年かけて段階的に縮小される。
現在受け取っている方の年金がすぐに減るわけではありません。ただ、これから家族の将来設計や遺言、生命保険の見直しを考える際には、改正後の制度を前提に、遺された配偶者の生活費を見積もっておくと安心です。
チェックリスト
- ☐ 亡くなった方が加入していた年金の種類(国民年金のみか、厚生年金もあるか)を確認した。
- ☐ 遺族年金を受け取れる遺族と、その優先順位を整理した。
- ☐ 遺族年金は遺産分割の対象外であることを、相続人の間で共有している。
- ☐ 未支給年金の請求もあわせて済ませた。
- ☐ 請求先(年金事務所・市区町村役場)に、必要書類と予約の要否を問い合わせた。
- ☐ 受け取る権利が5年で時効にかかることを把握している。
- ☐ 勤務先の企業年金・遺族一時金があるか、会社に確かめた。
Q. 借金が多いので相続放棄をする予定です。遺族年金も受け取れなくなりますか?
A. 遺族年金は遺族固有の権利とされ、相続財産には含まれないため、相続放棄をしても受け取れると考えられています。相続放棄の手続き(家庭裁判所への申述)と遺族年金の請求は別の手続きですので、それぞれの期限を確認しながら進めましょう。
Q. 母が遺族年金を受け取るなら、遺産の取り分を減らすべきだと兄に言われました。
A. 遺族年金は遺産分割の対象外で、生前贈与にもあたらないため、法律上は遺産の取り分を減らす理由にはならないと考えられます。もっとも、遺産分割は相続人全員の合意で自由に決められるため、お母さまの今後の生活費を踏まえて話し合うこと自体は差し支えありません。
Q. 遺族年金を受け取ると、相続税の申告が必要になりますか?
A. 公的年金の遺族年金は相続税の課税対象外とされているため、遺族年金だけを理由に申告が必要になることはありません。申告の要否は、預金や不動産などの遺産の合計額が基礎控除を超えるかどうかで判断します。
ワンポイントアドバイス: ご家族が亡くなった直後は、年金・健康保険・相続の手続きが一度に押し寄せます。遺族年金は「遺産とは別のお金」と最初に整理しておくだけで、遺産分割の話し合いがぐっと進めやすくなります。柏市・松戸市・流山市・我孫子市の方からも、戸籍の収集や手続きの順番についてのご相談を承っていますので、何から手をつければよいか迷ったときは気軽にお声がけください。
まとめ
遺族年金は、法律で定められた遺族が受け取る固有の権利とされ、亡くなった方の相続財産ではありません。遺産分割の対象にならず、相続放棄をしても受け取れ、所得税・相続税もかからないとされています。請求先は遺族厚生年金なら年金事務所、遺族基礎年金のみなら市区町村役場が基本で、受け取る権利は5年で時効にかかります。2028年4月からは子のない配偶者の遺族厚生年金が原則5年の有期給付になる見直しが予定されていますので、すでに受け取っている方は影響を受けないことも含め、制度の変化を知ったうえで将来の備えを考えておきましょう。
ご家族を亡くされた後の手続き、柏市の相談室で順番を一緒に整理します
行政書士は、相続人の調査(戸籍収集)、遺産分割協議書の作成などを承っております。なお、遺族年金の請求手続きの代行や受給要件の個別の判断は社会保険労務士または年金事務所、相続税の申告は税理士、相続放棄の申述書の作成は司法書士・弁護士、相続人間の交渉・訴訟は弁護士の業務となるため、必要に応じて適切な専門家をご案内いたします。
参考URL
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