「父の葬儀に200万円近くかかった。この費用は相続税の計算で差し引けるのか。四十九日の法要やお墓の費用も含めてよいのか」というご相談をいただくことがあります。柏市の行政書士だいち法務事務所です。葬儀にかかった費用の多くは、相続税を計算する際に遺産総額から差し引くことができるとされています。ただし、同じ「お葬式まわりの出費」でも、差し引けるものと差し引けないものがはっきり分かれている点には注意が必要です。線引きを整理します。
この記事の結論
- 通夜・告別式・火葬・埋葬・納骨の費用や、お布施・戒名料など、葬式に通常必要とされる費用は、相続税の計算上、遺産総額から差し引ける(葬式費用の控除)とされています(相続税法13条)。
- 一方で、香典返しの費用、墓地・墓石の購入費用、初七日や四十九日などの法要(法会)の費用は、葬式費用には含まれず差し引けないとされています。
- 相続放棄をした人でも、実際に葬式費用を負担した場合には、遺贈などで取得した財産(生命保険金など)の価額から差し引くことが認められるとされています。
相続税申告前の財産整理・相続人調査のご相談を承ります
相続税から差し引ける葬式費用とは
相続税は、亡くなった方の財産から借入金などの債務と葬式費用を差し引いた金額をもとに計算する仕組みとされています(債務控除、相続税法13条)。国税庁のタックスアンサー(No.4129)や相続税法基本通達13-4では、差し引ける葬式費用として、主に次のようなものが挙げられています。
- 通夜・告別式など、葬式や葬送に際して、または埋葬・火葬・納骨に要した費用
- お布施・読経料・戒名料など、葬式に際して施与した金品で、被相続人の職業・財産その他の事情に照らして相当程度と認められるもの
- 葬式の前後に生じた出費で、通常葬式に伴うものと認められるもの(通夜の飲食代など)
- 遺体の捜索や、遺体・遺骨の運搬にかかった費用
葬儀社への支払いだけでなく、寺院へのお布施や火葬場の使用料なども対象になり得る点がポイントです。
差し引けない費用の代表例
反対に、次の費用は葬式費用に含まれないとされています。
- 香典返しの費用:香典は喪主などへの贈り物であり、故人の財産ではないため相続税の対象外とされています。その裏返しとして、香典返しの費用も差し引けないという整理です。
- 墓地・墓石の購入費用、墓地の借入れ費用:お墓や仏壇などはもともと相続税がかからない非課税財産とされているため、その購入費用も葬式費用には含まれないとされています。
- 初七日・四十九日・一周忌などの法要(法会)の費用:故人を葬る儀式である葬式とは別の、追善供養のための行事と位置づけられているためとされています。
- 医学上または裁判上の特別の処置に要した費用:遺体の解剖費用などがこれにあたるとされています。
なお、告別式の当日に初七日法要を繰り上げて行うケースも増えていますが、その費用を葬式費用として扱えるかどうかは、内訳や実態により判断が分かれることがあるとされています。迷う場合は、見積書・請求書の内訳を残したうえで税理士に確認すると安心です。
誰が差し引けるのか、相続放棄との関係
葬式費用を差し引けるのは、原則として相続人や包括受遺者のうち、実際にその費用を負担した人とされています。相続放棄をした人は本来、債務や葬式費用を差し引くことはできませんが、実際に葬式費用を負担した場合には、遺贈などで取得した財産(みなし相続財産とされる生命保険金など)の価額から差し引くことが認められるとされています(相続税法基本通達13-1)。
あわせて気になるのが、故人の預金から葬儀代を支払うと、相続放棄ができなくなる(単純承認とみなされる)のではないか、という点です。社会的にみて相当な範囲の葬儀費用を遺産から支払うことは、直ちに単純承認にはあたらないと判断した裁判例もあるとされていますが、金額や状況によって判断が分かれる可能性があります。相続放棄を検討している場合は、支払う前に専門家へ相談することをおすすめします。
チェックリスト
- ☐ 葬儀社・火葬場・飲食などの領収書を、支払った人ごとにまとめて保管している。
- ☐ お布施・戒名料など領収書が出ない支出について、日付・支払先・金額・目的をメモに残している。
- ☐ 香典返し・墓石・四十九日法要の費用を、葬式費用と分けて管理している。
- ☐ 誰が葬式費用を負担したのか(喪主か、相続人の共同負担か)を相続人間で確認している。
- ☐ 相続放棄を検討している場合、故人の預金から葬儀代を支払う前に専門家へ相談している。
Q. 相続税がかからない見込みの場合も、葬儀代の領収書は取っておくべきですか?
A. 遺産総額が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下で申告が不要な場合、葬式費用を税務上差し引く場面はありません。ただし、葬儀代を誰がどれだけ負担したかは遺産分割の話し合いで精算の対象になることが多いため、領収書やメモは残しておくと安心です。
Q. いただいた香典は相続税の対象になりますか?
A. 香典は喪主などへの贈り物と考えられ、故人の財産ではないため相続税の対象にはならないとされています。社会通念上相当と認められる金額であれば、贈与税もかからないとされています。その代わり、香典返しの費用を葬式費用として差し引くこともできない点にご注意ください。
ワンポイントアドバイス: 相続税申告書では、葬式費用は「債務及び葬式費用の明細書(第13表)」に記載するとされています。お葬式の直後は慌ただしく、お布施の金額などを忘れてしまいがちです。葬儀の翌週までに、支出を一覧表にまとめておくと、その後の申告準備や相続人間の精算がスムーズになります。
まとめ
通夜・告別式・火葬・納骨の費用やお布施などは、相続税の計算上、遺産総額から差し引けるとされています。これに対して、香典返し・墓地や墓石の購入費用・四十九日などの法要の費用は差し引けないとされており、区別して管理することが大切です。相続放棄との関係も含め、判断に迷う支出がある場合は、早めに専門家へご相談ください。
相続手続き全般はお気軽にご相談ください
行政書士は、相続人調査や財産目録・遺産分割協議書の作成支援を承っております。なお、相続税の申告や個別の税務判断は税理士、相続放棄の可否をめぐる紛争性のあるご相談は弁護士の業務となるため、必要に応じて適切な専門家をご案内いたします。
参考URL
関連記事
- 相続税の申告は必要?いくらから?|基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人数)の計算方法
- 遺産の中に借金しかない…相続放棄と限定承認、どちらを選ぶ?|民法922条・923条の違いと熟慮期間
- お墓や仏壇は誰が継ぐ?|祭祀財産の承継と遺産分割・相続放棄との関係


コメント