「亡くなった叔父の遺言に、田舎の山林を私に遺贈すると書いてありました。正直なところ管理できないので受け取りたくないのですが、断ることはできますか」というお問い合わせをいただくことがあります。柏市の行政書士だいち法務事務所です。遺言で財産を譲ること(遺贈)は、遺言者が一方的に決められるものですが、受け取る側にも断る自由があります。もっとも、遺贈の種類によって、断り方と期限が大きく異なる点には注意が必要です。
この記事の結論
- 「この土地を譲る」のように財産を特定した遺贈(特定遺贈)は、遺言者の死亡後であればいつでも放棄できるとされています(民法986条)。家庭裁判所の手続きは不要です。
- 「全財産の3分の1を譲る」のような割合による遺贈(包括遺贈)は、相続放棄と同じく、原則として3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があるとされています(民法990条)。
- 一度した承認や放棄は、原則として撤回できません(民法989条)。放棄された財産は、遺言に別の定めがなければ相続人のものになります(民法995条)。
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特定遺贈は「いつでも」「意思表示だけで」放棄できる
特定の財産を名指しした遺贈については、民法986条が「受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる」と定めています。期限はなく、家庭裁判所への届出も求められていません。放棄をすると、その効力は遺言者が亡くなった時にさかのぼるとされ、最初から遺贈を受けなかったことになります。
放棄の意思は、遺贈を実行する立場にある人、つまり相続人や遺言執行者に伝えます。方式に決まりはないものの、口頭では後から「言った・言わない」になりかねません。日付と内容が残る書面、できれば内容証明郵便で通知しておくと安心です。
とはいえ、いつまでも態度を決めないと、相続人の側は遺産分割を進められません。そこで民法987条は、相続人などが受遺者に対し、相当の期間を定めて「承認するか放棄するか」を答えるよう催告できるとしています。この期間内に返事をしなかった場合は、遺贈を承認したものとみなされます。催告の手紙が届いたら、放置しないことが大切です。
包括遺贈は相続放棄と同じ「3か月」のルール
財産を特定せず「遺産の全部」「遺産の何分の1」という形で譲る遺贈を、包括遺贈といいます。包括遺贈を受けた人(包括受遺者)は、民法990条により相続人と同一の権利義務を持つとされ、プラスの財産だけでなく借金などの債務も割合に応じて引き継ぎます。
そのため、放棄の方法も相続人と同じ扱いになります。自分のために包括遺贈があったことを知った時から3か月以内に、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ、放棄の申述をする必要があるとされています。柏市・松戸市・流山市・我孫子市などにお住まいだった方の場合は、千葉家庭裁判所松戸支部が窓口です。
何もしないまま3か月が過ぎると、承認したものとして扱われる可能性があります。相続人ではない方が包括遺贈を受けた場合、「自分は相続人ではないから関係ない」と思い込んで期限を過ぎてしまう例が考えられます。遺言の文言が「特定」か「包括」かは、文面だけでは判断しにくいこともあるため、早めの確認をおすすめします。
放棄した財産はどこへ行くのか
遺贈が放棄されると、その財産は原則として相続人に帰属するとされています(民法995条)。遺言の中に「受遺者が放棄したときは別の人に譲る」といった定めがあれば、そちらに従います。放棄したからといって、国や自治体が引き取ってくれるわけではない点は押さえておきましょう。
受遺者が相続人でもある場合は、少し複雑です。遺贈を放棄しても、相続人としての立場は残ります。たとえば長男が「山林を遺贈する」という遺言を放棄しても、その山林は遺産に戻り、長男を含む相続人全員で分け方を話し合うことになります。借金も含めて一切関わりたくないのであれば、遺贈の放棄とは別に、家庭裁判所での相続放棄を検討する必要があります。
そしてもう一点、一度した承認や放棄は撤回できないとされています。「やはり受け取りたい」と後から考えを変えることは原則としてできないため、財産の内容をよく調べてから結論を出すことが欠かせません。
チェックリスト
- ☐ 遺言の文言が、財産を特定した遺贈か、割合による包括遺贈かを確認した。
- ☐ 遺贈される財産の内容(場所・評価額・管理の負担)を把握している。
- ☐ 包括遺贈の場合、借金や保証債務がないかを調べた。
- ☐ 遺贈があったことを知った日を記録し、3か月の期限を意識している。
- ☐ 相続人・遺言執行者から催告の書面が届いていないか確かめた。
Q. 遺言者がまだ生きているうちに、「遺贈は受け取りません」と放棄しておくことはできますか?
A. 遺贈の放棄は、遺言者の死亡後にできるものとされています。遺言は遺言者が亡くなって初めて効力が生じ、それまでは何度でも書き直せるためです。生前に受け取りたくない事情があるなら、遺言者ご本人に伝えて内容を見直してもらうのが現実的です。
Q. 複数の財産を遺贈された場合、欲しいものだけ受け取って残りを放棄できますか?
A. 特定遺贈で、財産ごとに分けられる内容であれば、一部だけを放棄することも可能と考えられています。ただし、遺言者が「全部まとめて」という趣旨で書いている場合など、遺言の解釈によって結論が変わる余地があります。包括遺贈については、相続放棄と同様に一部だけの放棄はできないと解されています。
ワンポイントアドバイス: これから遺言を書く立場の方は、譲りたい相手に事前に意向を聞いておくことをおすすめします。あわせて「受遺者が放棄した場合は○○に相続させる」という予備の一文を入れておけば、放棄されたときの行き先まで自分で決めておけます。
まとめ
遺言で財産を譲られても、受け取るかどうかは受遺者が選べます。特定遺贈は遺言者の死亡後いつでも意思表示で放棄でき、包括遺贈は3か月以内に家庭裁判所で手続きをする必要があるとされています。どちらの遺贈にあたるかで期限がまったく違うため、遺言書を見つけたら、まず文言を正確に読み解くことが出発点になります。
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