「一人暮らしをしていた母のアパートの大家さんから、『契約はどうされますか』と電話がありました。何から手をつければいいのでしょうか」。こうしたご相談は、親御さんが賃貸住宅で暮らしていたご家族から寄せられることが多いものです。柏市の行政書士だいち法務事務所です。結論からお伝えすると、借りていた人が亡くなっても賃貸借契約は自動的には終わらず、部屋を借りる権利(賃借権)や部屋に残された家財は、相続人に引き継がれるとされています。解約するまで家賃は発生し続けるため、相続放棄をするかどうかも含めて、早めに方針を決めることが大切です。
この記事の結論
- 借主が亡くなっても賃貸借契約は終了せず、賃借権は相続人に引き継がれます。解約の申し入れ、部屋の明け渡し、敷金の精算は、原則として相続人が行うことになります。
- 部屋に残された家財(残置物)も相続財産です。大家さんや管理会社が勝手に処分することはできないため、相続人が片付けを担うのが基本とされています。
- 相続放棄を考えているなら、解約や家財の処分の前に専門家へ相談しましょう。市営・県営などの公営住宅は、使用する権利が相続されないとされており、民間の賃貸住宅とは扱いが異なります。
親の住まいの片付けと相続手続き、順番からご一緒に整理します
賃貸借契約は自動では終わらない:賃借権も相続される
民法896条により、相続人は亡くなった方の財産に属した一切の権利義務を引き継ぎます。部屋を借りる権利である賃借権もその一つで、借主が亡くなったからといって契約が当然に終わるわけではないとされています。相続人が複数いる場合は、相続人全員が借主の立場を引き継ぎ、家賃については、各相続人がそれぞれ全額の支払いを求められる可能性があると考えられています。
亡くなる前にたまっていた家賃の滞納分は、借金と同じく相続される債務です。一方で、預けてある敷金を返してもらう権利も相続人に引き継がれます。プラスとマイナスの両方が相続の対象になる、と押さえておきましょう。
相続人がいない場合には、例外があります。借地借家法36条では、相続人がいないまま借主が亡くなったとき、同居していた内縁の配偶者や事実上の養親子は、借主の権利義務を引き継ぐと定められています。ただし、亡くなったことを知ってから1か月以内に大家さんへ反対の意思を伝えれば、引き継がないこともできます。
解約・明け渡し・敷金の精算の進め方
部屋を引き払う場合は、次のような流れで進めるのが一般的です。
- 賃貸借契約書を探し、解約予告期間(1か月前までなど)や原状回復の取り決めを確認する
- 大家さんまたは管理会社に、亡くなったことと、相続人の代表者の連絡先を伝える
- 相続人どうしで方針を話し合い、代表者から解約を申し入れる
- 家財(残置物)を片付け、電気・ガス・水道を止めて、鍵を返して部屋を明け渡す
- 敷金から未払い家賃や修繕費を差し引いた残額の精算を受ける
解約の効力が生じるまでは、家賃が発生し続ける点に注意が必要です。退去の際に求められる原状回復については、民法621条により、普通に暮らしていて生じた傷みや、年月の経過による劣化(壁紙の日焼けなど)は、借主側が直す必要はないとされています。修繕費の請求内容に疑問があるときは、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」も参考になります。敷金についても、民法622条の2で、明け渡し後に未払い家賃などを差し引いた残りを返還するものと定められています。
市営住宅や県営住宅などの公営住宅は、扱いが異なります。公営住宅を使用する権利は相続されないと判断した最高裁判所の判決(平成2年10月18日)があり、同居していた家族が住み続けるには、事業主体の承認を得るなどの手続きが必要になるのが一般的です。柏市内の市営住宅・県営住宅であれば、まずそれぞれの管理窓口に問い合わせてみてください。
相続放棄を考えているなら、先に立ち止まる
親御さんに借金があるなど、相続放棄を検討しているケースでは、注意が必要です。賃貸借契約の解約や、価値のある家財の処分・持ち帰りは、相続財産を処分したとみなされ、相続を承認したことになる(法定単純承認)おそれがあるとされています。大家さんから早く退去してほしいと言われても、慌てて動く前に、専門家に相談したうえで対応を決めましょう。
相続放棄ができるのは、原則として相続の開始を知った時から3か月以内です。その間に、家賃や滞納分がどれくらいあるか、ほかに財産や借金がないかを確認し、大家さんにも状況を伝えておくと、話し合いを進めやすくなります。
これからの備えとして、国土交通省と法務省は2021年6月に「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を公表しています。一人暮らしの高齢の方が賃貸住宅に入居する際、亡くなった後の契約の解除や家財の処分を任せる人(受任者)をあらかじめ決めておくための契約のひな形です。ご家族が遠方に住んでいる場合などに、検討してみる価値があります。
チェックリスト
- ☐ 賃貸借契約書を見つけ、解約予告期間と原状回復の取り決めを確認した。
- ☐ 大家さん・管理会社に、亡くなったことと代表者の連絡先を伝えた。
- ☐ 未払い家賃の有無と、預けている敷金の額を把握している。
- ☐ 相続放棄をするかどうかを決める前に、家財の処分や解約を急いでいない。
- ☐ 公営住宅の場合は、管理窓口に承継や退去の手続きを問い合わせた。
Q. 私は母のアパートの連帯保証人です。亡くなった後の家賃も払わなければいけませんか?
A. 2020年4月以降に結ばれた個人の連帯保証契約(根保証)では、借主が亡くなった時点で保証の対象となる元本が確定するとされ、亡くなった後に発生した家賃は、原則として保証の対象外と考えられています。ただし、保証人が相続人でもある場合は、相続人として家賃を負担する立場になることがあります。契約の時期や内容によって結論が変わるため、契約書を確認のうえご相談ください。
Q. 大家さんに「家財はこちらで処分しておきます」と言われました。任せてもいいですか?
A. 家財の所有権は相続人にあるため、相続人の了解なく大家さんが処分することは、原則としてできないとされています。任せる場合は、処分の範囲と費用の負担を書面で確認しておくと安心です。相続放棄を検討しているときは、処分に同意すること自体が問題にならないか、先に専門家に確認しましょう。
ワンポイントアドバイス: 部屋を片付ける前に、通帳・印鑑・権利証・保険証券・郵便物などの貴重品と書類を、ひとまとめに取り分けておきましょう。これらは相続手続きに欠かせない手がかりになります。スマートフォンで部屋の様子を写真に残しておくと、原状回復の話し合いや、ほかの相続人への説明にも役立ちます。
まとめ
親御さんが借りていたアパートの契約は、亡くなっても自動的には終わらず、賃借権・敷金・家財・未払い家賃はいずれも相続人に引き継がれます。解約するまで家賃がかかり続ける一方で、相続放棄を考えている場合は、解約や家財の処分を急ぐと単純承認とみなされるおそれもあります。契約書の確認、大家さんへの連絡、相続の方針決めを順番に進めることが、余計な負担を避ける近道です。
賃貸住宅の後始末と相続の進め方、お気軽にご相談ください
行政書士は、相続人調査(戸籍収集)、財産目録の作成、遺産分割協議書の作成、生前の備えとしての死後事務委任契約書の文案作成を承っております。なお、相続放棄の申述は司法書士・弁護士、大家さんとの間で争いになった場合の代理交渉や訴訟は弁護士の業務となるため、必要に応じて適切な専門家をご案内いたします。
参考URL
- e-Gov法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号)
- e-Gov法令検索 借地借家法(平成三年法律第九十号)
- 国土交通省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
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