「父の遺言で実家は私が受け継ぐことになり、遺言執行者も決まっていたのに、兄が自分の持分を勝手に第三者へ売ってしまったようです。取り戻せるのでしょうか」。遺言をめぐって、このようなご相談をいただくことがあります。柏市の行政書士だいち法務事務所です。民法1013条は、遺言執行者がいる場合に、相続人が遺言の執行を妨げる処分をすることを禁じ、その処分を原則として無効と定めています。ただし2019年の改正で、事情を知らない「善意の第三者」には無効を主張できないというルールが加わりました。今回は、この条文の仕組みと、遺言を確実に実現するための備えを整理します。
この記事の結論
- 遺言執行者がいる場合、相続人は相続財産の処分など、遺言の執行を妨げる行為をすることができません(民法1013条1項)。違反した行為は原則として無効とされています。
- 2019年7月1日施行の改正により、無効であっても「善意の第三者」には対抗できないことになりました(同条2項ただし書)。買主が事情を知らなければ、取引が有効と扱われる可能性があります。
- 遺言の内容を確実に実現するには、遺言書で遺言執行者を指定しておき、相続開始後は執行者が速やかに相続人への通知や登記を進めることが大切だと考えられます。
遺言どおりに財産を引き継ぐために、遺言書の内容から一緒に確認しませんか
民法1013条とは?遺言執行者がいると相続人は財産を処分できない
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を持つとされています(民法1012条1項)。その権限を守るために置かれているのが民法1013条で、1項では「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない」と定めています。
2項本文では、これに違反した行為は無効とされます。冒頭の例のように、遺言で実家を弟に「相続させる」とされ、遺言執行者もいるにもかかわらず、兄が法定相続分にあたる持分を売却したり担保に入れたりした場合が典型です。なお、過去の最高裁判例では、遺言で指定された遺言執行者が就任を承諾する前であっても「遺言執行者がある場合」に当たると判断されたことがあります。
2019年改正で加わった「善意の第三者」の保護
改正前は、遺言執行者がいる場合の相続人の処分は「絶対的に無効」と解されていました。しかし、遺言の存在も遺言執行者の存在も知りようがない買主などが、思わぬ不利益を受けるという批判がありました。そこで、2018年に成立し2019年7月1日に施行された相続法改正で、2項にただし書が設けられ、無効を善意の第三者に対抗することはできないとされました。
つまり現在は、買主などの第三者が事情を知らなかった場合、遺言で財産を受け継ぐはずだった方は、その第三者に対しては無効を主張できない可能性があります。その場合でも、勝手に処分した相続人に対して、損害の賠償などを求める余地はあると考えられます。どのような事情があれば「善意」と認められるかは個別の判断になるため、実際に処分が行われてしまったときは、早めに弁護士へ相談することが重要です。
あわせて押さえておきたいのが、1013条3項です。相続人の債権者(相続債権者を含む)が、相続財産について差押えなどの権利を行使することは妨げられないと定められています。さらに、法定相続分を超える部分については、登記などの対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないとする民法899条の2のルールもあります。遺言があるから安心と考えず、登記を早めに済ませることが実務上の大きなポイントになります。
遺言を確実に実現するための備え
遺言を書く方の側でできる備えとしては、まず遺言書の中で信頼できる遺言執行者を指定しておくことが挙げられます。2019年の改正では、遺言執行者は就任後、遅滞なく遺言の内容を相続人に通知しなければならないとされ(民法1007条2項)、特定財産承継遺言(「相続させる」旨の遺言)では、遺言執行者が単独で相続登記を申請できることも明確になりました(民法1014条2項)。
相続が始まった後は、遺言執行者が速やかに就任を通知し、不動産の相続登記を早めに申請することで、ほかの相続人による処分や第三者とのトラブルを防ぎやすくなります。反対に、相続人の立場で実家の売却などを考えている場合は、手続きを進める前に遺言書や遺言執行者の有無を確認しておくことが欠かせません。公正証書遺言や法務局で保管されている自筆証書遺言は、検索や証明書の請求で存在を確認できる仕組みがあります。
チェックリスト
- ☐ 遺言書に遺言執行者が指定されているかを確認した。
- ☐ 遺言執行者に指定された人が、就任を承諾するかどうかを把握している。
- ☐ 遺言執行者から相続人全員へ、遺言の内容を通知した。
- ☐ 不動産の相続登記を、遺言執行者または受け継ぐ相続人が早めに申請する段取りを組んだ。
- ☐ 相続人の立場で財産を売却する前に、公正証書遺言の検索や法務局の保管状況を調べた。
- ☐ 処分がすでに行われてしまった場合に備え、相談できる弁護士を確認している。
Q. 遺言執行者がいない場合でも、相続人の処分は無効になりますか?
A. 民法1013条は「遺言執行者がある場合」の規定です。遺言執行者がいない場合は、この条文による無効の問題ではなく、民法899条の2などにもとづき、登記を先に備えたかどうかで優劣が決まる場面が多いとされています。遺言で財産を受け継ぐ方は、いずれにしても早めの登記が大切です。
Q. 相続人全員が合意していれば、遺言執行者がいても遺言と違う分け方はできますか?
A. 相続人全員の合意があれば、遺言と異なる遺産分割ができる場合があるとされています。ただし、遺言執行者がいる場合は、その同意も得ておくのが一般的な実務と考えられます。受遺者がいる場合はその方の同意も必要になりますので、事前に関係者全員の意向を確認しておきましょう。
Q. 親の預金を相続人が勝手に引き出した場合も、1013条の対象になりますか?
A. 遺言執行者がいる場合、預金の払戻しなども遺言の執行を妨げる行為に当たり得ると考えられます。もっとも、払い戻された預金の返還を求める方法や相手方の主張によって判断が分かれるため、具体的な対応は弁護士にご相談ください。使途不明金の調べ方は、関連記事もあわせてご覧ください。
ワンポイントアドバイス: 民法1013条は、遺言執行者がいて初めて働くルールです。「家族が勝手に財産を動かさないか心配」という方は、遺言書を作る段階で遺言執行者を指定しておくことが、いちばん手軽で効果的な備えになります。柏市・松戸市周辺で遺言書の作成をご検討中の方は、執行者を誰にするかも含めてご相談ください。
まとめ
遺言執行者がいる場合、相続人が相続財産を勝手に処分することは民法1013条で禁じられ、原則として無効とされています。一方で、2019年の改正により、事情を知らない善意の第三者には無効を主張できないことになりました。遺言の内容を確実に実現するためには、遺言書で遺言執行者を指定し、相続開始後は相続人への通知と登記を速やかに進めることが大切です。
遺言執行者の指定を含めた遺言書づくりを、柏市の相談室がお手伝いします
行政書士は、遺言書の文案作成のサポート、相続人の調査(戸籍収集)、財産目録や遺産分割協議書の作成などを承っております。なお、相続人による処分をめぐる交渉や訴訟は弁護士、不動産の名義変更(相続登記)は司法書士、相続税の申告は税理士の業務となるため、必要に応じて適切な専門家をご案内いたします。
参考URL
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