「父の遺言書には『全財産を長男に相続させる』とありました。でも、そのころの父は認知症が進んでいて、とても自分で考えて書けたとは思えません」。こんにちは。柏市の行政書士だいち法務事務所です。遺言書が見つかったものの、その内容や作られた経緯にどうしても納得できない、というご相談は少なくありません。今回は、遺言の無効を主張できるのはどんな場合か、そして実際に争うときの手続きの流れと、見落としやすい期限について整理します。
この記事の結論
- 遺言が無効となり得る主な場面は、法律で定められた方式を守っていない場合、作成時に遺言能力がなかった場合、偽造が疑われる場合などです。内容が不公平というだけでは、無効にはならないとされています。
- 相続人同士の話し合いでまとまらなければ、原則としてまず家庭裁判所に調停を申し立てます(調停前置、家事事件手続法257条)。調停が不成立となった場合は、地方裁判所に遺言無効確認訴訟を起こす流れになります。
- 無効を争っている間も、遺留分侵害額請求の「知った時から1年」という期間は進む可能性があります。念のため、内容証明郵便などで遺留分侵害額請求の意思表示もしておくことが大切です。
遺言書の内容に疑問があるとき、まずは状況の整理からお手伝いします
遺言が無効になり得るのはどんなとき?
まず確認したいのは、遺言書が法律で定められた方式を守っているかどうかです。自筆証書遺言であれば、全文(財産目録を除く)・日付・氏名を遺言者が自分で書き、押印することが必要とされています(民法968条)。日付が「〇月吉日」となっている、本人以外の人が本文を書いている、といった場合は、方式違反として無効になる可能性があります。
次に問題となりやすいのが、遺言能力です。遺言をするには、その内容や結果を理解できるだけの判断能力が必要とされています(民法963条)。認知症の診断があるだけで直ちに無効となるわけではなく、作成当時の症状の程度、遺言の内容の複雑さ、作成に至った経緯などを総合して判断されると考えられます。そのほか、本人の筆跡ではない、誰かに無理やり書かされた、といった偽造や強迫の疑いがある場合も、無効や取消しが問題になります。
一方で、「長男だけに多く相続させるのは不公平だ」という理由だけでは、遺言は無効にならないとされています。このような場合は、無効を争うのではなく、遺留分侵害額請求によって最低限の取り分を金銭で求めることを検討するのが一般的です。
話し合い・調停・訴訟の流れ
最初のステップは、相続人同士の話し合いです。相続人全員が「この遺言には従わない」と合意できれば、遺言と異なる内容で遺産分割をすることも可能とされています(遺言執行者や受遺者がいる場合は、その同意も必要です)。話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所の手続きに進みます。
遺言無効確認は家庭に関する事件にあたるため、訴訟の前に、原則として家庭裁判所へ調停を申し立てる必要があるとされています(家事事件手続法257条)。申立先は相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定めた家庭裁判所で、費用は収入印紙1,200円と連絡用の郵便切手が目安です。話し合いの余地がないことが明らかな場合などは、最初から訴訟を起こすことが認められる例もあります。
調停で合意できなければ、地方裁判所に遺言無効確認訴訟を起こすことになります。訴訟では、無効を主張する側が、方式違反や遺言能力の欠如を裏づける証拠を示していく必要があります。作成当時の診療記録や介護記録、要介護認定の資料、筆跡を比べるための本人の手紙やメモなどが、重要な手がかりになると考えられます。公正証書遺言の場合も無効を争うことはできますが、公証人が本人の意思を確認して作成しているため、無効と判断されるハードルは高いとされています。
見落としやすい「遺留分の1年」に注意
遺言の無効を争う場合に、特に気をつけたいのが遺留分侵害額請求の期限です。遺留分侵害額請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する遺言などがあることを知った時から1年間行使しないと、時効によって消滅するとされています(民法1048条)。遺言の無効を主張している間も、この期間は進むと判断される可能性があります。
そのため、無効を争う方針であっても、期限内に内容証明郵便などで「仮に遺言が有効であるとしても、遺留分侵害額を請求する」という意思表示をしておくことが大切です。裁判の場面でも、主に遺言の無効を求めつつ、予備的に遺留分の請求を行う形がとられることがあります。具体的な進め方は、早い段階で弁護士に相談しておくと安心です。
チェックリスト
- ☐ 遺言書の種類(自筆証書・公正証書・秘密証書)を確認した。
- ☐ 自筆証書遺言なら、日付・署名・押印に不備がないか見直した。
- ☐ 作成当時の遺言者の健康状態が分かる資料(診療記録・介護記録など)の取り寄せ方を調べた。
- ☐ 遺言者の筆跡と比べられる手紙やメモを手元に保管している。
- ☐ 相続開始と遺言の内容を知った日を、メモに残した。
- ☐ 遺留分侵害額請求の意思表示を、1年以内に内容証明郵便で送る準備をした。
Q. 遺言の無効を争う手続きに期限はありますか?
A. 遺言無効確認の調停や訴訟そのものには、法律上の明確な期限は定められていないとされています。ただし、時間が経つほど作成当時の資料や証言は集めにくくなります。また、遺留分侵害額請求には1年の期限があるため、無効を争う場合でも、早めに意思表示をしておくことが重要です。
Q. 法務局で保管されていた自筆証書遺言でも、無効を主張できますか?
A. 法務局の保管制度では、保管の申請時に日付や署名などの外形的な方式は確認されますが、遺言の内容や遺言者の判断能力までは審査されないとされています。そのため、遺言能力がなかったことなどを理由に、無効を主張する余地はあると考えられます。保管制度を利用した遺言であれば、検認は不要です。
Q. 争いになる前に、行政書士に相談できることはありますか?
A. 相続人の範囲を確定するための戸籍収集や、遺言書の有無の調査、相続財産の一覧づくりなど、状況を整理するお手伝いは可能です。相手方との交渉や調停・訴訟の代理は弁護士の業務となるため、必要に応じて弁護士をご紹介します。事実関係が整理されていると、弁護士への相談もスムーズに進めやすくなります。
ワンポイントアドバイス: これから遺言を残す方にとっては、「無効を争われない遺言」を作ることが何よりの対策です。公正証書遺言を選ぶ、作成時期に近い医師の診断書を残しておく、付言事項で分け方の理由を伝えるといった工夫で、残されたご家族の争いを防ぎやすくなります。当相談室では、こうした点に配慮した遺言書の作成をサポートしています。
まとめ
遺言の無効を主張できるのは、方式違反や遺言能力の欠如、偽造の疑いなど、遺言そのものに問題がある場合とされています。話し合いでまとまらなければ、原則として家庭裁判所の調停を経て、地方裁判所の遺言無効確認訴訟へと進みます。無効を争っている間も遺留分侵害額請求の1年の期限は進む可能性があるため、念のための意思表示を忘れないようにしましょう。納得できない遺言書を前にしたときこそ、感情的にならず、事実と期限を一つずつ確認していくことが大切です。
相続人の確定や財産の整理から、柏市の相談室がサポートします
行政書士は、相続人の調査(戸籍収集)、相続財産の調査のサポート、遺産分割協議書や遺言書の文案作成などを承っております。なお、遺言無効確認の調停・訴訟や遺留分侵害額請求の代理、相続人間の交渉は弁護士、不動産の名義変更(相続登記)は司法書士、相続税の申告は税理士の業務となるため、必要に応じて適切な専門家をご案内いたします。
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