「父が30年近く払い続けた修繕積立金が、数百万円にはなっているはず。マンションを売ったら、その分は戻ってきますよね?」――相続したマンションの売却を考え始めた方から、柏市の行政書士だいち法務事務所でもよく耳にする疑問です。毎月の引き落としが長年続いていたことを思うと、払った分を取り戻したくなるのは自然なことでしょう。(参考例)売却の段取りを進めるなかで、不動産会社から「修繕積立金は戻りません」と説明されて驚き、相続人の間で「売るのは大規模修繕の後のほうが得なのでは」と議論になってしまった、というケースもあります。今回は、修繕積立金が返還されない理由と、相続から売却までの管理費等の負担、売却時の精算の考え方を整理します。
この記事の結論
- 修繕積立金は、マンションの共用部分を計画的に修繕するために管理組合が積み立てている財産とされ、部屋を売却しても原則として売主に返還されません。多くの管理規約で、納めた管理費等の返還請求はできないと定められています。
- 相続してから売却するまでの管理費・修繕積立金は相続人が負担し、売却時には、引渡日を境に買主と日割りで精算するのが一般的とされています。積立金が十分に貯まっていることは、買主にとって安心材料となり、売りやすさにつながる面があります。
- 亡くなった方に管理費等の滞納があった場合、その支払義務は相続人に引き継がれるうえ、買主にも請求できる仕組みのため、売却の決済時に清算しておくのが通常です。口座凍結で引き落としが止まり、知らないうちに滞納になっていないかにも注意が必要です。
相続したマンションの売却準備、不動産会社に相談する前に整理しませんか
修繕積立金は、なぜ売っても戻ってこない?
修繕積立金は、外壁の塗り替えや屋上の防水工事、給排水管の更新といった、十数年ごとに行う大規模修繕に備えて、管理組合が区分所有者全員から集めているお金です。亡くなった方の名義の預金とは違い、納めた時点で管理組合の財産になると考えられています。
国土交通省が公表している「マンション標準管理規約」にも、組合員は納めた管理費等について返還や分割を請求できないという趣旨の定めが置かれており、多くのマンションの管理規約がこれにならっているとされています。そのため、部屋を売却しても、管理組合から売主に積立金が払い戻されることは原則としてありません。
また、区分所有法では、管理組合が規約などにもとづいて持つ債権は、部屋を買った人(特定承継人)に対しても請求できると定められています(区分所有法8条)。管理組合の財産と、それにまつわる権利義務は、部屋の持ち主が替わっても建物とともに引き継がれていく、というのが基本的な考え方です。
「払い損ではないか」と感じるかもしれませんが、これまでの積立金はすでに建物の維持に役立っており、残っている積立金は次の大規模修繕に使われます。積立金が十分に貯まっていて修繕計画に無理がないマンションは、「入居後すぐに一時金を求められる心配が少ない」として買主から評価されやすく、間接的に売りやすさや売却価格に反映される面があると考えられます。
相続から売却までの管理費等は誰が払う?
区分所有者が亡くなっても、管理費と修繕積立金は毎月発生し続けます。相続が始まった後の分は、マンションを相続した人(遺産分割が終わるまでは相続人全員)が負担することになると考えられます。特に気をつけたいのは、次の点です。
- 口座凍結による引き落とし不能:亡くなった方の口座から引き落とされていた場合、金融機関が死亡を把握すると口座が凍結され、引き落としが止まります。気づかないまま数か月が過ぎると、管理組合から見れば滞納の扱いになるため、早めに管理会社へ連絡し、引落口座を相続人の口座に切り替えておくことが大切です。
- 区分所有者の変更の届出:管理規約で、所有者が替わったときに管理組合へ届け出ることが求められているのが一般的です。相続登記が済む前でも、当面の連絡先となる相続人を管理会社に伝えておくと、総会の案内や修繕の連絡を受け取りやすくなります。
- 立て替えた人と負担割合:遺産分割の前は、相続人の誰かが代表して立て替えることが多くなります。誰がいくら立て替えたかを記録し、売却代金から精算する方法などを相続人の間で決めておくと、後の行き違いを防げます。
一方、亡くなる前から管理費等の滞納があった場合、その支払義務は相続債務として相続人に引き継がれます。相続放棄をした人は支払義務を負わないとされますが、マンションを売却すると相続を承認したものと扱われ得るため、放棄を検討している場合は売却の話を進める前に順番を整理しておく必要があります。
売却時の精算の考え方と、買主への説明
売却の際は、管理費・修繕積立金を、固定資産税・都市計画税と同じように、引渡日を境に売主と買主で日割りして精算するのが一般的とされています。法律で決まったルールではなく、売買契約書の取り決めにもとづく慣行のため、精算の起算日や方法は契約書で確認しておきましょう。
たとえば、管理費と修繕積立金の合計が月額31,000円で、当月分を前月末に支払い済みの場合、31日ある月の21日に引き渡すと、21日から月末までの11日分(1日1,000円×11日=11,000円)を買主が負担する計算になり、決済時に売買代金とあわせて買主から受け取る形が考えられます。
あわせて、次の情報は、不動産会社が管理会社から取り寄せる「重要事項調査報告書」などをもとに、重要事項説明で買主に説明されるのが通常です。
- 現在の修繕積立金の月額と、管理組合全体の積立金の残高
- 長期修繕計画の有無と、近い将来の値上げや一時金徴収の予定
- その部屋に管理費等の滞納があるかどうか、その金額
滞納がある場合は、買主が管理組合から請求を受ける可能性があるため、決済の際に売買代金の中から清算するのが一般的です。滞納が残ったままだと値下げ交渉の材料になりやすいため、相続後に滞納が生じていないかを売り出し前に確認しておくと安心です。なお、買主から受け取る精算金が譲渡所得の計算上どのように扱われるかは、売却後の確定申告の際に税理士に確認しておきましょう。
チェックリスト
- ☐ 管理費・修繕積立金の引落口座が凍結されていないか、管理会社に確認した。
- ☐ 相続人の連絡先を管理会社(管理組合)に届け出ている。
- ☐ 亡くなる前からの滞納と、相続後の未払いの有無を把握した。
- ☐ 相続人の誰が管理費等を立て替えているか、記録を残している。
- ☐ 管理規約で、管理費等の返還や所有者変更の届出の定めを読んだ。
- ☐ 長期修繕計画と、値上げ・一時金の予定を確認した。
- ☐ 売買契約書で、管理費等の日割り精算の起算日を確かめた。
Q. 大規模修繕の直前に売ると、積み立ててきた分を買主に使われて損ではないですか?
A. 積立金は管理組合の財産のため、売るタイミングによって売主に戻る金額が変わることはないとされています。むしろ、修繕が近いのに積立金が不足していると一時金や値上げの可能性が買主に説明され、売却価格に影響することもあります。売る時期は、修繕の予定と相続人の事情をあわせて判断するのが現実的と考えられます。
Q. 売却が決まるまで、管理費等の支払いを止めておいてもいいですか?
A. 支払いを止めると滞納の扱いになり、管理規約によっては遅延損害金が加算されることがあります。滞納分は最終的に売却の決済時に清算が必要になるうえ、買主の印象も悪くなりやすいため、相続人の間で立て替える人を決めて支払いを続けるのが無難です。
Q. 「修繕積立基金」として購入時にまとまったお金を払っていました。これも戻りませんか?
A. 新築時に払う修繕積立基金も、管理組合の修繕のための財産として扱われるのが一般的で、売却時に返還されることは通常ないと考えられます。取り扱いは管理規約によるため、念のため規約や購入時の書類を確認しておきましょう。
ワンポイントアドバイス: 相続したマンションの売却では、「積立金が戻るかどうか」よりも、相続後の管理費等を誰がどう負担し、売却代金からどう精算するかを相続人の間で先に決めておくことが、揉めないためのポイントです。不動産の売買・仲介・賃貸管理に携わってきた経験から、柏市・松戸市・流山市周辺のマンションについて、管理規約や重要事項調査報告書の読み方、遺産分割協議書への精算方法の記載を中立な立場でお手伝いします。
まとめ
修繕積立金は管理組合の財産とされ、相続したマンションを売却しても、原則として売主に返還されることはありません。そのかわり、積立金がしっかり貯まっていることは買主の安心材料となり、売りやすさにつながる面があります。相続から売却までの管理費等は相続人が負担し、売却時には引渡日を境に日割りで精算するのが一般的です。口座凍結による引き落とし不能や、亡くなる前からの滞納がないかを早めに確認し、立て替えと精算の方法を相続人全員で決めてから売却を進めましょう。
親から受け継いだマンションの売却、柏市の相談室で一緒に段取りを
行政書士は、相続人の調査(戸籍収集)、遺産分割協議書の作成、管理組合への届出書類の作成などを承っております。なお、不動産の名義変更(相続登記)は司法書士、売却に伴う譲渡所得の申告や税額の個別の判断は税理士、マンションの売買の仲介は宅地建物取引業者、管理組合や相続人間の交渉・訴訟は弁護士の業務となるため、必要に応じて適切な専門家をご案内いたします。
参考URL
関連記事
- マンションを相続したら管理費の滞納も引き継ぐ?|区分所有建物特有の相続手続き
- 口座凍結、いつから?いつ解除される?|相続発生後の預貯金手続きの流れ
- 相続した実家を売るとき、不動産会社との契約はどれを選ぶ?|一般媒介・専任媒介・専属専任媒介の違いと相続人が複数いる場合の注意点
- 相続した実家を売ったら、確定申告は必要?|譲渡所得の申告期間(翌年2月16日〜3月15日)と特例を使うときの注意点


コメント