「葬儀は家族だけで小さく行い、遺骨は海に撒いてほしい。遺言書にそう書いておけば安心ですよね」と尋ねられることがあります。柏市の行政書士だいち法務事務所です。結論からお伝えすると、葬儀の形式や納骨先の希望は、法律で定められた「遺言事項」ではないため、遺言書に書いても法的な拘束力はないとされています。確実に実現したい場合は、遺言書とは別に「死後事務委任契約」を結んでおく方法が考えられます。
この記事の結論
- 遺言書で法的効力が生じるのは、相続分の指定や遺贈など、法律で定められた事項に限られます。葬儀や納骨の希望は「付言事項」として扱われ、ご家族への「お願い」にとどまるとされています。
- 遺言書が見つかる、または開封されるのが葬儀の後になり、希望が間に合わないこともあります。
- 葬儀・納骨・各種の解約など、亡くなった後の事務を信頼できる人に頼む「死後事務委任契約」を生前に結んでおけば、契約として実現を図ることができます。財産は遺言書、手続きは死後事務委任契約と、役割を分けて準備するのが基本です。
最期の希望の残し方、一緒に考えてみませんか
遺言書で法的効力が生じるのは「遺言事項」だけ
遺言書は、書いたことすべてに法的な効力が生じるわけではありません。民法などの法律で定められた「遺言事項」に当たる内容についてだけ、効力が認められるとされています。
代表的な遺言事項には、相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈、遺言執行者の指定、子の認知、祭祀主宰者(お墓や仏壇を受け継ぐ人)の指定などがあります。
一方で、「葬儀は家族葬にしてほしい」「遺骨は〇〇寺の納骨堂に納めてほしい」といった希望は遺言事項に含まれません。こうした内容は「付言事項」として扱われ、ご家族が気持ちを汲んでくれることは期待できても、従う法的な義務までは生じないと考えられています。
遺言書だけでは葬儀に「間に合わない」こともある
もう一つの落とし穴は、タイミングです。自宅で保管していた自筆の遺言書は、家庭裁判所での検認を経てから開封する必要があり、手続きには一般的に数週間から1か月以上かかるとされています。
葬儀は亡くなってから数日のうちに行われることがほとんどです。そのため、遺言書に葬儀の希望を書いていても、ご家族が内容を知ったときには葬儀が終わっていた、ということも起こり得ます。公正証書遺言や法務局で保管している遺言書であっても、ご家族が存在を知らなければ同じことになりかねません。
死後事務委任契約とは
死後事務委任契約は、ご本人(委任者)が生前に、信頼できる人(受任者)との間で、亡くなった後の事務を任せる約束をしておく契約です。受任者には、親族のほか、知人や行政書士などの専門家がなることもあります。
任せられる事務の例としては、次のようなものが挙げられます。
- 葬儀・火葬の手配と、指定した方法での納骨・埋葬
- 病院・介護施設の費用や、家賃などの精算
- 公共料金・携帯電話・サブスクリプションの解約
- 遺品の整理、SNSアカウントの削除
民法653条では、委任者が亡くなると委任契約は終了すると定められています。ただし、最高裁平成4年9月22日判決は、死後の事務を任せる契約について、委任者の死亡によっても終了しない合意を含むものと判断したとされています。実務では、契約書に「委任者が死亡しても本契約は終了しない」と明記し、公正証書で作成しておくことが多いようです。
遺言書と死後事務委任契約の使い分け
両者は役割が異なるため、どちらか一方ではなく、組み合わせて準備するのが基本です。
- 遺言書:誰にどの財産を引き継ぐかを決める(財産の承継)
- 死後事務委任契約:葬儀・納骨や各種の手続きを誰に任せるかを決める(亡くなった後の事務)
- 付言事項:なぜそのように決めたのか、ご家族への想いを伝える(気持ちの共有)
葬儀費用などを受任者に前もって預けておく(預託金)方法のほか、遺言書で受任者への支払いを定めておく方法もあります。また、契約の存在を知らないご家族が、後から契約を解除しようとしてトラブルになるケースもあると指摘されています。受任者と遺言執行者を同じ人にしておく、生前にご家族へ契約内容を伝えておくといった工夫が、円滑な実現につながります。
チェックリスト
- ☐ 葬儀の形式・規模・宗教について、自分の希望を書き出した。
- ☐ 納骨先(お墓・納骨堂・散骨など)の候補を決めている。
- ☐ 亡くなった後の手続きを任せられる人に、心当たりがある。
- ☐ 葬儀や納骨にかかる費用の目安と、その支払い方法を考えた。
- ☐ 遺言書や契約の存在を、家族に伝えておくかどうか検討した。
Q. 遺言書でお墓を継ぐ人を決めることはできますか?
A. 祭祀主宰者(お墓や仏壇などを受け継ぐ人)の指定は、遺言でできるとされています(民法897条)。ただし、指定された方に、どこに納骨するかまで法的に義務付けられるわけではないため、納骨先の希望は別途伝えておくのが望ましいでしょう。
Q. 子どもがいる場合でも、死後事務委任契約は必要ですか?
A. ご家族が希望を理解していて、手続きを担える状況であれば、必ずしも必要ではないと考えられます。お子さんが遠方に住んでいる、ご家族と希望が異なりそう、頼れる親族がいないといった場合には、検討する価値があります。
ワンポイントアドバイス: 葬儀の希望を遺言書の付言事項に書くこと自体は、ご家族に想いを伝える方法として意味があります。そのうえで、ご家族にも口頭で伝え、エンディングノートなどすぐに目に入る形でも残しておくと、希望が届きやすくなります。おひとりさまや、ご家族に負担をかけたくない方は、遺言書と死後事務委任契約をセットで準備しておくと安心です。
まとめ
葬儀の形式や納骨先の希望は遺言事項ではなく、遺言書に書いても付言事項として扱われるため、法的な拘束力はないとされています。遺言書の開封が葬儀に間に合わないこともあるため、確実に実現したい希望がある場合は、死後事務委任契約を結んでおく方法が考えられます。財産は遺言書、亡くなった後の手続きは死後事務委任契約、想いは付言事項と、それぞれの役割に合わせて準備しておきましょう。
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参考URL
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