「家業を継ぐ長男に、事業用の借入れも含めて全部引き継がせたい。遺言にそう書いておけば、ほかの子どもたちに迷惑はかからないですよね?」。柏市の行政書士だいち法務事務所には、遺言の準備を始めた方から、こうしたご質問が寄せられることがあります。結論からお伝えすると、遺言で借金を負担する人を決めることはでき、相続人どうしの間ではその内容が基準になると考えられています。ただし、お金を貸した側(債権者)に対しては、原則としてその遺言を主張できず、ほかの子も法定相続分に応じて請求を受ける可能性があるとされています。
この記事の結論
- 遺言で相続分を指定した場合でも、亡くなった方の債権者は、各相続人に法定相続分に応じて支払いを求めることができるとされています(民法902条の2)。
- 一方、相続人どうしの内部では、遺言で指定された割合で借金を負担するのが原則です。ほかの子が債権者に支払った場合は、その分を長男に請求(求償)できると考えられています。
- 債権者が遺言の内容を承認した場合や、債権者との間で債務の引受けについて合意した場合には、遺言どおりの形で整理できることがあります。遺言を作る段階から、借入先との調整も視野に入れておくと安心です。
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借金も相続の対象になる
相続では、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借入金・未払いの代金・連帯保証の責任などのマイナスの財産も、原則として相続人に引き継がれます。借金のようにお金で支払う債務は、相続が始まると法律上当然に分かれ、各相続人が法定相続分に応じて引き継ぐと考えられています。
例として、父が600万円の借入れを残して亡くなり、相続人が子3人だけだったとします。この場合、法定相続分は各3分の1ですので、債権者は子それぞれに200万円ずつ支払いを求めることができる、というのが基本の考え方です。
遺言で「長男が払う」と書いた場合の効力
民法902条の2は、遺言で相続分の指定がされた場合でも、債権者は法定相続分に応じて各相続人に権利を行使できると定めています。これは、最高裁判所の平成21年3月24日の判決の考え方を、2018年の相続法改正で条文にしたものとされています。
債権者の立場からすれば、自分の知らないところで作られた遺言によって、返済能力の低い相続人にだけ請求先を絞られては困ります。そのため、遺言の内容を債権者に押しつけることはできない、という整理になっています。
もっとも、遺言がまったく無意味になるわけではありません。相続人どうしの関係では、遺言で指定された割合で借金を負担するのが原則と考えられています。冒頭の例でいえば、次男が債権者に200万円を支払った場合、遺言で「長男が全部負担する」とされていれば、次男はその200万円を長男に請求できる、ということになります。
なお、債権者が遺言で指定された割合での承継を認めた場合は、以後は指定された割合で請求することになるとされています(民法902条の2ただし書)。
遺言どおりに整理するために考えておきたいこと
遺言を書く方の立場では、次のような準備が考えられます。まず、借入先・残高・保証の有無を一覧にまとめ、遺言とあわせて家族が確認できるようにしておくことです。そのうえで、借入先の金融機関に、相続が起きたときの対応(後継者が単独で引き継ぐ手続きが取れるかどうか)を事前に相談しておくと、相続後の調整がスムーズになります。
相続が始まった後は、借金を引き継ぐ相続人と債権者との間で、ほかの相続人を債務から外す「免責的債務引受(めんせきてきさいむひきうけ)」の合意ができれば、遺言の意図に沿った形に整理できることがあります。これは債権者の同意が前提となる手続きです。
反対に、借金が財産を大きく上回る場合には、相続放棄を検討する相続人もいるでしょう。ただし、相続放棄は自分が相続人になったことを知った時から原則3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があり、プラスの財産も一切受け取れなくなります。遺言で財産を受け取る予定がある方は、慎重に判断する必要があると考えられます。
チェックリスト
- ☐ 借入れ・ローン・連帯保証の有無と残高を、一覧にまとめた。
- ☐ 遺言で借金の負担者を決めても、債権者には原則として主張できないことを理解している。
- ☐ 借入先の金融機関に、相続時の手続きを事前に相談する予定がある。
- ☐ 借金を引き継ぐ人に、返済の原資(財産や生命保険など)が渡るよう配慮している。
- ☐ 遺言の付言事項で、負担の分け方を決めた理由を家族に伝えることを検討している。
Q. 遺言で全財産を長男に相続させると書いた場合、借金も長男だけが引き継ぎますか?
A. 相続人どうしの間では、特段の事情がない限り、借金も長男がすべて引き継ぐ趣旨と解されるとされています。ただし、債権者はほかの相続人に対しても法定相続分に応じて請求できるため、ほかの子が支払った場合には、長男に求償するという流れになります。
Q. 遺産分割協議で「借金は長男が払う」と決めた場合も同じですか?
A. 遺産分割協議で借金の負担者を決めた場合も、債権者の同意がなければ、債権者に対してはその取り決めを主張できないと考えられます。協議書に記載するだけで安心せず、債権者との調整もあわせて進めることが大切です。
Q. 相続した借金があるかどうか、どうやって調べればいいですか?
A. 亡くなった方の通帳の引落し履歴や郵便物、契約書類を確認するのが基本です。そのうえで、信用情報機関に情報開示を請求すると、金融機関などからの借入れの状況を把握できる場合があるとされています。
ワンポイントアドバイス: 事業や住宅のための借入れがある方は、遺言に「誰が借金を負担するか」を書くだけでなく、その人に返済できるだけの財産が渡る内容になっているかも確認しておきましょう。負担だけが偏る遺言は、相続人どうしの不公平感や遺留分の問題につながりやすくなります。付言事項で理由を丁寧に伝えておくことも、家族の納得につながると考えられます。
まとめ
遺言で「借金は長男が払う」と定めることはでき、相続人どうしの間ではその内容が基準になると考えられています。しかし、債権者は遺言に関係なく、各相続人に法定相続分に応じて請求できるとされています(民法902条の2)。遺言の意図どおりに整理するには、債権者の承認や債務引受の合意が必要になる場面もあります。借入れがある方ほど、財産と債務の全体像を整理したうえで、早めに遺言の内容を検討しておきましょう。
財産と借入れの両方をふまえた遺言づくり、お気軽にご相談ください
行政書士は、遺言書の文案作成のサポート、相続人調査(戸籍収集)、財産目録・遺産分割協議書の作成を承っております。なお、相続放棄の申述書作成・家庭裁判所での手続きは司法書士・弁護士、債権者との交渉や相続人間の争いの代理は弁護士、相続税の申告は税理士の業務となるため、必要に応じて適切な専門家をご案内いたします。
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